数ヵ月前に新聞に紹介されていた
ある短歌集に大きな衝撃を受けた

セーラー服の歌人 鳥居
「キリンの子」

彼女のこれまでの生い立ちを詠った歌だが
いくつもの不幸が重なるドラマのように
あまりに壮絶すぎて
にわかに信じることができなかった

外国の話でもなく
日本の昭和の話でもない
まぎれもなく現代平成の話

彼女の人生を一冊の本にした
「セーラー服の歌人 鳥居」を読むと
一つひとつの短歌がどんな経験の下に作られたか感じ取れる

しかしあまりに辛すぎて
途中で体が震え、悲しみと怒りがこみ上げてきてしまい
気持ちを落ち着かせるため
何度も本を閉じ時間を置いたため
一気に読むことができなかった

彼女に感情移入すると
悲しみと恐怖、そして孤独が襲ってきて
親もしくは大人の立場で読むと
関わる大人のほとんどが
小児に対しあまりにひどい扱いをすることに
心底怒りがこみ上げてくる

母親の死にゆく姿をわずか小学生の時に目の当たりにする
くちあけてごはんいれてものみこまず死を知らぬ子は死にゆくひとに

預けられた児童養護施設での壮絶な虐待を受ける
爪のないゆびを庇って耐える夜 「私に眠りを、絵本の夢を」

友人の自殺を目の当たりにする
急行の軋み過ぎゆき友だちは手品のように消えてしまえり

学ぶために通った職業訓練校での辛辣な言葉の侮辱
強すぎる薬で狂う頭持ち上げて前視る授業を受ける

本人の自殺未遂やホームレス生活なども

ただそうした現実の出来事を
短歌として表現するのは誰もができることではない
満足に教育を受けられなかったにも関わらず
独学でここまで表現できるのは彼女に秀でたものがあったからだろう
奇しくも自身を苦しめた肉親から授かった才能が
彼女を守ってくれたように思う

そしてこれだけの困難を経験した中で
なにより彼女に「生きる」という前向きな気持ちがあったからこそ
見るべきところをきちんと見てくれた人たちに出会うとことができた

本当に良かったと思う

彼女のこの短歌集はほとんどがつらい過去のことを詠っているが
なかにはとてもこころ温まるような歌もあった

精神を病み修羅場のような母親や祖母とのつかの間の穏やかな日々を回想した歌

コロッケがこんがり揚がる夕暮れの母に呼ばれるまでのうたた寝

大きく手を振れば大きく振り返す母が見えなくなる曲がり角

精神的にまだ危ういということだが
いつか彼女自身の希望ある未来の詠歌が生まれることを待ち望む

短歌集の解説を記した歌人吉川宏志氏の言葉に感銘を受けた
「短歌によって自分の言葉を獲得することで運命を変えていった。
 ~略~ 生身の言葉であるから、他者に思いは伝わり、
他者を動かしていったのだろう。~略~ 自分の言葉を持った人は
孤独ではない。」

現在少しずつ活躍の場を広げている鳥居
まさに短歌という生きがいを持った彼女はもう孤独でない

これから一ファンとして応援していきたい
同時に自分自身も短歌を勉強してみよう思うようになった
彼女のおかげだ